仕事について

 仕事をどのように理解しているかは人によって様々に異なっている。仕事に関して多くの人が共有しているものの、人生にとってあまり有意義でない理解は「仕事は収入を得るための手段でしかない」というものであろう。このように考えてしまうと、仕事はマニュアルに従って義務的、機械的に行うものとなってしまいがちである。人は人生において多くの時間を仕事に費やすが、その多くの時間は収入を得るためだけのものであり人生にとってあまり有意義でない時間であると解釈することは悲しいことである。
 仕事は収入以外にも、肯定的要素を多く含んでいる。仕事を始めるときには誰しも何らかの不安を抱えていると思うが、業績への貢献や達成感により次第に自信を深めるようになる人は多いのではないかと思う。また、顧客や社会への貢献を通して充実感や満足感を感じている人も多いであろう。働けること自体が喜びであり、仕事が生き甲斐だと感じている人もいる。仕事上で関わる人々への貢献や交流に喜びを感じる人もいるであろう。仕事において努力をする人は、その努力に応じて能力的成長を遂げているであろう。
 仕事上では、多くの困難や嫌な出来事に遭遇することも事実である。しかしながら、これらの出来事を経験することにより、克己や忍耐、他人との協調や寛容の精神など人間的な成長を遂げている人も多いであろう。精神科医の森田正馬とヴィクトール・フランクルは、課題や仕事をルーチーンワーク的にこなすのではなく、自分なりの創意工夫を加えながら課題や仕事に没頭することが神経症治療において決定的であり、精神衛生上重要であることを指摘している。これは、人間的成長と神経症の治療とが関係していることを示唆していると解釈することもできるため興味深いと思う。
 仕事を収入を得るための手段と定義することは仕事において感じられる充実感や達成感などの現実感を無視するものである。およそ人の活動は様々な側面があり様々な意味や影響を持っているにも関わらず、仕事を一つの側面からだけ見てしかも自分の人生に役立たないように定義することは悲しいことと言わざるを得ない。
 尚、心理学的知見によると、賃金が高ければ高いほど働く意欲が高まるという訳ではなく、賃金は一般的には一定以上の水準を満たしていない場合にのみ企業に対して不満を感じさせる衛生要因(不満要因)であると理解されている。これは、仕事の価値が収入だけではないことを心理学の側面から裏付けていると見なすことができる。