民意を反映させる政治制度

 民主政治の基本は言うまでもなく如何に民意を政治に反映させるかにある。一般的には日本は民主政治の国家と認識されているが、民意を反映させやすい政治制度になっているかというと疑問が残る。以下、民意を政治に反映させる制度について考えてみる。
 日本では第二次世界大戦後から中選挙区制度が採用されてきたが,選挙にお金がかかりすぎるなどの理由から1994年に公職選挙法が改正され,1996年の衆議院選以降は小選挙区制の選挙が実施されてきた。小選挙区制度では当選者は1名のみであり,得票率が最も高い候補者のみが当選し、その意見を国政に反映させることが可能になる。2大政党制の国家では小選挙区制で勝利した政党は国民の過半数の支持を得ていると言えるが、3つ以上の政党が競合する国家では国民の過半数の支持を得ていない政党でも選挙で勝利すれば議会で過半数の議席を確保することが可能になる。
 小選挙区制という選挙制度は、このように過半数の国民の支持がなくても得票率が最も高かった政党によって国会や政府が運営される結果となるため、民意をより反映させやすい制度であるとは言い難い。
 小選挙区制度でなければ与党が国会議員の過半数を占めることが難しくなるため政治が安定しにくくなるという主張もあるが、これは与野党が自らの主張にのみ固執した政策決定や国会運営をしようとしていること自体に問題があるのであり選挙区制度自体の問題と考えるべきではない。与党は、国会で過半数の議席を確保したとしても、政党や政策の支持率が国民の過半数に達していないならば、国民の過半数が望んでいることを実現するような運営を心掛けるべきである。また、野党は、自らの党が与党よりも国民に支持されていないことを自覚し、与党の支持者にも合意されうるような政策を提案すべきではないかと考える。主張が完全に対立する政策課題については、野党は自らの主張を述べるにとどめ、政策決定は国民の過半数の意見に沿って行われるように協力すべきである。
 民意を政治に反映させようとする上での障礙は選挙制度だけではない。最近の個別の政治課題では、同一政党内でも意見が異なることが多く、与党の一部の議員と野党の一部の議員の意見が一致しているような場合もある。このような政治課題の場合、与党は与党の党首の見解を統一見解とし、野党は野党の党首の見解に統一、もしくは与党と反対の意見に統一させて、それぞれ党議拘束をかけて国会での議決を行うというようなことが頻繁に行われている。問題となっている政治課題についてより多くの国民が要望していることは何かということに基づいて政策決定がされているとは言い難い。つまり、民意を反映させようとする国会運営がなされているとは言いがたい状況である。
 では、党内で意見が異なるような政治課題に関して、民意をより反映させるための仕組み作りはできないのであろうか?これは2つの仕組みによって可能になるものと思われる。一つは、選挙において各候補者に個別の政治課題についての見解を明確にさせて有権者はその候補者の見解に基づいて投票するようにすることである。この場合、有権者は自らが最重要と考える政治課題に対する候補者の見解を重視して投票を行うようにすることが望ましく、支持政党の候補者に固執しないようにすべきである。
 もう一つの仕組みは党議拘束の廃止である。党内に異なる意見があることを認識し、それぞれの議員の意見が国民である有権者の支持を得て当選したことを尊重すれば、このような政治課題において党議拘束をかけることは妥当ではない。与党は党首の政策方針に沿って政治を推進するのではなく、個々の課題についての国民の多数意見を実現するように政治を運営すべきである。野党についても同様に、国会決議において党首の意見に合わせた投票をするのではなく、国民の多数意見を実現するような国会運営に協力すべきである。
 以上は、既存の制度・概念の範囲内で如何に政治に民意を反映させるかという考察であるが、インターネットという新しいツールを持つ現代においては民意を反映させる新しい方法が導入可能である。民意を反映させる対象については2種類考えられる。一つは新しい法案や議論のある政治課題について、国民の意見を聞くこと。もう一つは、現在行われている行政について国民の評価を明らかにすることである。後者の目的は行政の具体的内容について国民の目から見た優先順位を明らかにして、適宜行政の内容を見直すことである。これにより行政サービスの満足度を高めるとともに、ニーズや満足度の低い行政サービスを縮小または終了させることにより財政の健全化の道筋を作ることが可能になる。