心のあり方や人間的成長を重視するという政治理念は政策自体を決定するというよりも、個々の政策の選定や決定を行う際の判断根拠を与えるという傾向が強い。この判断根拠をキーワードで示すならば、その一つは共存である。社会は立場や経済状態、思想の異なる人々と共存する場であり、共存し時に摩擦や衝突があるゆえに人間的成長を遂げられる場でもある。共存は当然ながら国際社会においても重要であり、異なる民族・宗教・文化の人々と世界を共有し生きていくという自覚が必要である。自国第一主義に陥らずに、他国と自国、他国民と自国民を同等に扱うことにより、他国と価値観を共有することが可能になり、国際的に共通の課題に対する政策を共有化することができるようになるであろう。共存のために大切な姿勢は、異なる意見などについてその背景や根拠を含めて理解しようと努める一方、自らの意見についても背景や根拠を改めて考え直し、更に相手に理解されるように工夫して説明する努力をすることだと考えるが、これは外交だけでなく、内政や政党間においても必要なものであろう。
他人や他の国家と共存するために必要なものが2つ目のキーワード、寛容である。具体的な行動で言うならば、異なる意見や過ちを必要以上に非難しないということである。人は非難されると感情的に反発するため、人間関係や国家間の関係は建設的な方向には進まなくなる。人は誰でも過ちを犯す存在であることを自覚すれば、過ちを犯した人や国家に対しても寛容な態度で臨み過剰な非難は慎むべきである。学習心理学では、相手の望ましくない行動を罰を与えることによって減少させようとする学習方法(正の罰)は、罰を与えた相手だけを回避したり、力(暴力)による問題解決を正当化するなど罰を与えた目的とは異なる学習をしてしまう可能性があることが指摘されている。また、罰は何をすべきでないかを教えようとするものであるが、何をすべきかを教えるものではないため、最近は望ましい学習方法ではないとの理解が一般的となっている。このため、相手に「~を非難する」という対立的メッセージを送るのではなく、同じ視点に立ったメッセージや、望ましい行為は何であったかという視点でコメントを発表する方が、相手側が態度を変化させる可能性が高くなるのではないかと思う。非難することにより強いメッセージを送る必要があると思いがちであるが、自分に対して従順な相手であればともかく、対立的な関係にある場合には逆効果になる可能性が高い。国内政治においては政党間の非難を慎むべきであり、外交においては国家間の非難を慎むべきである。尚、これは国際的な制裁を科さないという意味ではない。国家において刑罰が必要なように、国際的に制裁が必要なことは否定できない。重要なことは問題を起こした個人や国家を必要以上に非難せず追い詰めないという事である。
共存とも関係するもう一つのキーワードは中庸である。人には、自由競争重視か福祉重視か、個人の自立を重視するか協調性を重視するか、安定志向か挑戦者志向かなど、相反する思想や傾向がある。これらの思想や傾向は、一般的には個人の個性として理解されあまり変化しないものと思われている。しかし、例えば協調性を要求されすぎる日本社会に馴染めない人が海外生活を経験して日本社会の良い点を見直すようになるなど、個人の経験や成長によって変化することもある。上述したような対立する思想や傾向が人によって異なり、また経験によって変化するとすれば、それらは絶対的なものではないと理解するのが妥当であろう。このため、政治としては対立する考えの一方を選ばずに、中庸を心掛ける方が無難であるとの結論になるであろう。思想や傾向は時代とともに変化するため、一時期の過半数意見や時勢によって判断するのではなく、長期的視野をもって中庸を心掛けることが望ましいと考える。
人間的成長と関係して重視されるべきキーワードは自由である。先に述べたように、人間的成長は、強制されるべきものではなく、その個人に委ねられるべきものである。そのためには、思想の自由、行動の自由が前提となる。政府としては個人や企業の活動を必要以上に規制することは好ましくなく、また個人や企業を必要以上に保護することもその自立を阻害するという意味で好ましくない。当然ながら自由は身勝手に振る舞うことを意味するのではなく、思想と行動について個人が選択する権利を持っていることを意味するとともに、その選択の結果に対する責任をその個人が負うことも前提としている。「問題を起こさないために~しない、させない」という発想方法から脱し、許容できる失敗は許容し反省を次に生かすことを重視すべきである。
人間的成長と関係するもう一つのキーワードは勤勉である。長時間労働や過労死問題がある現代の日本では、仕事を収入のための手段としか見ない不健全で視野の狭い考えの広がりもあって、労働や勤勉が軽視される傾向がある。仕事は、収入を得るだけのものではなく、充実感や喜びを味わうことができる機会でもある。またその仕事に対する個人の姿勢に応じて忍耐や協調、寛容、共感など様々な人間的成長をもたらすものでもある。自由というキーワードと関連して述べるならば、人間は職業選択の自由があるだけでなく各々の職務において何を重視しどのように働くかという選択の自由も有しており、人間的成長はこの選択の自由に応じてなし遂げられるものである。勤勉は個人の働く姿勢であり政府の政策として関連することは少ないが、仕事に関する多面的で健全な見解とともに、様々な機会にその重要性を社会と国民に浸透させていくことが大切だと考える。