政治と心とは、一般的には無関係だと思われている。しかしながら、混迷した政治を救うのは政治理念の中心に心を据えることではないかと思う。
N H Kは毎月各政党の支持率をアンケート調査しているが、2020年平均の自由民主党の支持率は36.0%であった。連立内閣を構成する公明党の支持率3.4%を加えると、その合計は39.4%であり50%には達していない。支持政党なしの平均は41.7%と自由民主党と公明党の合計と同程度になっており、わからない・無回答の平均は7.0%であった。わからない・無回答は、政治に関心がないか政治に失望している人と解釈することが妥当ではないかと思うが、支持政党なしと回答した人は、多少なりとも政治には関心を持っていると考えられるので、既存政党とは異なる新たな政治理念が出現することを期待していると解釈してもあながち間違いではないと思う。
最近政治に関して無力感を感じることの一つに国際的な問題がある。2021年2月のミャンマーにおける軍事クーデターとこれに続く反対デモ参加者への弾圧については、多くの国がこれを批難する表明を出したものの、現地での状況は改善していない。香港における民主派の弾圧についても、人権を重視する諸外国の要求は内政干渉を口実として無視されており、状況はむしろ悪化する方向である。また、中東やアフリカにおける宗教的間対立、部族間対立など様々な対立に起因する紛争に関しても国際社会は有効な対策を講ずることができず、多くの難民を生じさせ続けている。
このようなニュースを耳にする際に思うことは、いずれも問題を簡単に解決させる方策を見出すことは難しいであろうが、せめて長期的にこのような問題を減少させていく方策を考える必要があるのではないかということである。その方策の一つとして考えられることは、政治学者や世界のリーダーたちが自国の利益を離れてこのような国際問題を解決するために理想的な政治のあり方を議論しあうようになれば、長期的には上述のような問題が軽減する方向に向かうことを期待することができるであろうということである。理想の政治のあり方や国家の役割や権限については今まであまり議論がなされてきたとは思われず、これらについて議論や理解が深まり国際的な合意が形成されれば、その合意に反する行為例えば人権侵害を軽減させることができるのではないかと思う。政治は今まで主に経済を中心として運営されてきたと言えると思うが、経済を中心とした政治理念では人権問題や紛争問題はその視野に入っていないため、為政者によって判断が異なってしまう。このため、人権問題や紛争も視野に入れた、理想の政治を実現するための、新たな視点の政治理念を検討する必要があると考える。
一方、最近の国内政治に関する失望は政治家や官僚の不祥事である。不祥事自体に対する失望もあるが、指摘された問題に関して積極的に無実を証明しようとするのでもなく、潔く罪を認めるのでもなく、国会答弁において「記憶にない」などの誠意のない回答に終始する姿勢にも失望を禁じえない。このような誠意のない政治家や官僚の姿を見ると、その思想や能力がどうであれ、多くの国民は政治全体に対しても不信を抱き失望してしまうのではないかと懸念してしまう。誠意のない答弁や説明は、不祥事だけの問題ではない。例えば、財政の逼迫を理由に消費税が導入され、過去3回にわたって消費税率を上昇させたが、これらの際に国民に十分な説明がなされたとの印象はない。労働人口の高齢化と長期的減少を考えれば、勤労者中心の税金徴収から消費者中心の税金徴収にシフトするのは妥当であり、説明の方法や説得の姿勢によっては多くの国民に賛同を得られる可能性があったと思うが、この政策変更をなんとしてでも国民に納得してもらおうと政府や政治家が努力したとは思われない。国民にこの変更を納得してもらおうと真剣に考えれば、支出に優先順位を設けて不要不急の支出を最大限抑えるように努力したであろうし、長期的にどのような国家財政にするかというビジョンも合わせて示したであろうが、少なくともそのような記憶はない。ここで問題にしたのは、事務的とか通り一遍とか、心がこもっていないという言葉で表現される姿勢であるが、政治に新たに加えるべき視点はこの心という言葉ではないかと考える。
政治にせよ、民間企業にせよ、心のこもらない仕事にはまともな成果は期待できない。心のこもった仕事は、仕事に成果をもたらすだけでなく、本人に満足感や生き甲斐をもたらし、周囲の人々にも良い影響を与える。心のこもった仕事は、一般的には何らかの努力が伴い、克己や忍耐などの人間的成長ももたらす。仕事に工夫を凝らし、立派な成果をあげた偉人やプロフェッショナルの物語は私たちを感動させる。その人物が精神的にも優れた人であれば、私たちの感動は尚更である。具体策については今後の課題であるが、心を重視する政治、心を大切にする風土を作り上げることができればその影響は政治や経済だけにとどまらず大きなものになるであろう。幸い日本には仕事にやり甲斐や生き甲斐を求める傾向があるという好ましい条件が備わっている。経済的利益のみを優先して右往左往する政治には感動は生じない。経済的利益のみを優先して節度ない外交政策を行えば、諸外国の信用や尊敬を得ることは到底できず、国際的な問題に貢献することも難しくなるであろう。商売では信用が第一とされるように、外交においても信用が重要であることは多くの人が合意するであろう。
閉塞感のある政治には新たな理念が必要であり、経済中心の政治から心をキーワードとする新たな理念政治に移行することができれば、内政的にも外交的にも好ましい影響を与えることができるのではないかと考える。